2017.10.23 16:24『銀のひとつ星』とても寒いある雪の日のことです。一人の少年が、傷ついた一匹の子鹿を抱え山道を下っていました。子鹿は、大事そうに毛布にくるまれていましたが、その中では、もうかなりぐったりとしていました。空は、恐ろしいほど重たい灰色をしていました。ぼろぼろと大きくちぎれた雪たちは、まるでオオカミのよ...
2017.10.22 16:24『桜の花が散る頃』少女は今日も病院のベンチに座っていました。ベンチの横には、大きな桜の木が一本立っていました。桜の木は、今年もいい香りをさせながら満開に花を咲かせています。しかし少女には、桃色の花びらも、桜の花のいい香りも、今は何も感じられませんでした。 少女の頭の中は、昨日から入院した...
2017.10.21 16:24『二十四夜の月』大きなまあるい月かられた光が、採れたての花粉のように、はらはらと樹氷に付き、やがて蛍のように、ほうほうと灯り始めました。 いつもなら、雪粒の宝石をくわえて遊んでいる白烏達も、今夜ばかりは、おとなしく何処かで夜が明けるのを待っているようです。 いつしか月は真...
2017.10.20 16:24『自転車とオルゴール』自転車は、今日も夢を見ていました。 四月のやわらかな風にさらさらと吹かれながら、力いっぱい両手をのばして待ち構えている草の子たちの間を、自転車は、するする滑るようにして走ってゆきます。空は、まるで海の底から見上げている時のようで, どうしてよいのかわからないくらい、高く高く続い...
2017.10.19 16:24『山を去った大男の話』その日めずらしく雲の上のカンムリ山にも朝一番、玉虫色の風が吹きました。昨夜の雨もすっかり上がり、木も花も石もまるで生まれたばかりのようにつやつやの露をつけ、赤や緑に光らせています。 こんな日がくると大男は、朝ごはんも昼ごはんも食べないで、手をはたはたさせながら空を見てぐ...
2017.10.18 16:24『お昼の月』あと一時間で夜も明けるというのに、月はまだ、夜一時の顔をしていました。目はらんらん、頭はさんさん、あまりの光の鋭さに、梟も、今夜はもう六回も首を回しています。今日午前十時、お昼の月がやってきます。 いつもなら、黄色い朝日の下で働いている人たちも、青空を自由に飛びまわる鳥...
2017.10.17 16:24『カノープスの蛙』蛙は月を見ておりました。 黄色い半分のぼんやりと白く浮かぶこの月を今年最後に、蛙はしばらくの間、また土に戻ります。 蛙は月を見つめながら、まっくろい目玉を大きく揺すり、月を揺らして遊びました。 黄色い半分のぼんやりとした月は、蛙の目の中でいつまでも...
2017.10.16 16:24『光の国』二月ももうすぐ終わる頃、長い長い眠りの中から、リスの子は、目を覚ましてしまいました。外はまだ真っ暗で、風はなく、ただしんと静まりかえっていました。「…おなかすいた…」木の葉にくるまれたふとんの中で、リスの子は、ふと、去年はおかあさんと一緒だったことを思い出しました。 ...