『銀のひとつ星』

とても寒いある雪の日のことです。

一人の少年が、傷ついた一匹の子鹿を抱え山道を下っていました。

子鹿は、大事そうに毛布にくるまれていましたが、その中では、もうかなりぐったりとしていました。


空は、恐ろしいほど重たい灰色をしていました。

ぼろぼろと大きくちぎれた雪たちは、まるでオオカミのようにウーウーと唸りながら、辺り一面に、冷たく降り積もってゆきます。


それでも少年は、頬を真っ赤にしながら、黙々と歩いてゆきました。

しばらくすると、少し小高い丘の上にバス停があるのを見つけました。


(バスに乗せてもらおう)


少年は、バス停に向かいました。

バス停に近づき、少年は足を止めました。

そこには、一匹の白いうさぎが立っていました。

どのくらいいたのでしょう。耳と耳との間には、真っ白い雪がどっしりまあるく積もっています。

少年は、しばらくうさぎを見ていましたが、ゆっくりと、うさぎの後に並びました。

うさぎは何も言わず、ただじっと前を見つめていました。


いつの間にか雪は静かに降っていました。

少年は、子鹿の様子が気になり、そっと毛布をめくってみました。

子鹿はかすかに震えながら目を開き、少年をじっと見つめました。

突然、雪けむりが音もなく舞い上がりました。

舞い上がった粉雪があまりにキラキラと眩しすぎて、少年は思わず子鹿を抱きしめ目を伏せました。

舞い上がった粉雪のキラキラが、ゆっくりと静かに沈んでゆくのと同時に、薄夢色の小さなバスが姿を現しました。

前の扉が開くと、今までじっと前を見たまま動かなかった白いうさぎが、ぴょこんとバスに乗り込みました。

少年は、少し頭を傾げましたが、続いてバスに乗り込みました。

バスの中に入ると、キツネ、タヌキ、リス、灰色のウサギ、黒ネコが、外を見ながら座っていました。

しかし、何故だかみんな深い煤緑色の目をしているのでした。

少しして、「コトン」という音がしました。

少年が振り向くと、ゆっくり座席の方に歩いてゆく白いうさぎが見えました。

少年は音のした方に近づき、少し驚きました。

そこには、氷でできた小さな透明の箱がありました。

そしてその中には、うさぎが入れた雪球が一つ入っていました。

箱の向こうにも、同じように氷でできた大きな壁がありました。

その中から、何やらシャリシャリという音がしていました。

突然、シャリシャリという音が止み、氷の壁に映った黒くて大きな影が、ゆっくりとこちらを見たような気がしました。

少年は、あわててポケットに入っていた雪で雪玉を作り、透明の箱に入れると、


「麓の病院で降ろしてください」


そう言って、座席の方に歩いてゆきました。

歩きながら少年は、横目でチラリと氷の壁を見ました。

そのとき、氷の壁のすき間から、片方の大きな黒いガラス玉のような目が見えました。

その大きな黒いガラス玉のような目には、赤や、青や、黄や、緑の丸いつぶつぶがあり、少年が通り過ぎると、虹色に妖しく輝きました。

少年は、ハッとして急いで目を逸らし、何故か深い煤緑色の眼をした動物たちの間をドキドキしながら通りぬけ、一番後の真ん中の座席に座りました。

前の扉が閉まると、バスは一回ぶるるんと震えて大きく深呼吸をしました。

窓の外には真っ白な雪けむりが上がり、キラキラ、キラキラと輝き始めました。

無数のキラキラが一つの大きな光に変わったとき、バスはふわりと動き出しました。

少年は、後を振り返りました。

バスの後には、銀色に輝く光の渦がどこまでも続いていました。

少年は前を向き直し、時間が経つ毎に弱弱しくなっていく子鹿を抱きしめ、そっと目を閉じました。

音もなくバスは静かに走ってゆきました。

どのくらい走ったのでしょう。

暫らくすると、バスは少しづつ速度を落としはじめました。

窓から見えた銀色に輝く光の渦は、無数のキラキラに変わりながら、滑るようにして走るバスの横を、さらさらと流れてゆきました。

やがてバスが静かに止まると、見たことのない景色が雪けむりと共に広がりました。

少年が窓を開けると、そこには、星のない夏の夜空のような空と、キラキラと宝石のように輝く真っ白い雪だけが、どこまでもどこまでも続いていました。

突然、動物たちがゆっくり立ち上がりはじめました。
すると、バスの扉が静かに開き、雪玉を入れた小さな氷の箱の中に、ピンクや、みずいろや、オレンジ色のこんぺい糖が、きれいな音をたてながら出てきました。
動物たちは、小さな氷の箱に近づいて、自分の好きな色のこんぺい糖を一つづつ取りました。
そしてそれを大事そうに口に入れると、次々に元気よくバスの外に飛び出しました。
真っ白な雪の上をゆっくりととび跳ねながら、音もなく消えてゆく動物たちの姿を、少年は、ただ茫然と見ていました。
その時、今まで少年の胸に抱かれていた子鹿が、突然ぴょんととび出しました。
少年は思わず、立ち上がりました。
子鹿は大きく、ぴょん、ぴょん、ぴょんと三度跳ね、氷の箱のそばまで行くと振り返り、真っ黒い瞳でじっと少年を見つめました。
「待って‥」
少年は、あわてて子鹿に駆け寄りました。
子鹿は、最後に残った緑色のこんぺい糖を口に入れると、元気よくバスの外に飛び出しました。
「待って!」
気が付くと少年は、一人小高い丘の上に立っていました。
いつの間にか雪は止み、静かな夜がおとずれていました。
少年は、空を見上げました。
空には、満天の星が輝いていました。

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