『二十四夜の月』

大きなまあるい月かられた光が、採れたての花粉のように、はらはらと樹氷に付き、やがて蛍のように、ほうほうと灯り始めました。  

いつもなら、雪粒の宝石をくわえて遊んでいる白烏達も、今夜ばかりは、おとなしく何処かで夜が明けるのを待っているようです。  

いつしか月は真ん中に昇り、月の灯りだか雪の灯りだかよく分からなくなってきた頃、 遠くの方から、たくさんの光るつぶつぶが、こっちに向かってやって来るのが見えました。

たくさんの光るつぶつぶは、雪の中を、きょろきょろ、きょろきょろと泳ぎ廻りました。

ひととおり周りの畑を泳ぎ終わると、たくさんの光るつぶつぶは、順番にポコポコと雪の中から顔を出しました。

現われたのは、何百という数のもぐらでした。  

もぐら達は、雪の中から顔を出すと、皆、月の方を見ました。 

長い間もぐら達は、きっとした目玉をうるうると光らせながら、黙って月を見つめていました。 

やがて、もぐら達の桃色の影が、長い長いに変わると、大きなまあるい月の方から、微かな歌声が聞こえてきました。 

その歌が少しづつ大きくなるのと同時に、大きなまあるい月の中から、 たくさんの兎達が、きっちりと二列に並んで、踊りながら、もぐら達の方にゆっくりと下りてきました。  

兎達は、次々雪の上に舞い下りると、跳ねるようにそれぞれのもぐら達に近づいて、手をとり、一緒に踊り始めました。 

兎と踊っているもぐらの周りを、たくさんのもぐら達が、ぐるりと大きく取り囲みました。  

もぐら達の、長い長い、一年で一番長い夜が始まりました。 

大きなまあるい月は、金色の鏡に変わり、踊る兎ともぐらを、空いっぱいに映し出しました。 

雪は、真っ白の冷たい炎に変わり、長い長い夜を見守りました。 

その名をもぐら達は、風の音を聴き、土の鼓動を感じながら、踊って、踊って、踊り続けました。

どのくらいの時間が通り過ぎたでしょう、やがて、群青色と薄紫の空の下に赤いひとつ星が輝き始めると、兎は踊るのを止めて、 一緒に踊っていたもぐらの手をとり、ゆっくりと月を見上げました。 

そして、ふわり、またふわりと、月に向かって歩き始めました。

二列に並び、月に向かう兎ともぐらを、残されたもぐら達は、ただ黙って、じっと見つめていました。 

上ってゆく兎ともぐらは、どんどん小さくなってゆきました。 

その時、一番最後の小さなもぐらが、くるりとこちらを振り返りました。 

もぐらの眼から、一粒涙がこぼれました。 

涙は、きらきら、きらきらと風に吹かれ、その日、二つ目の星になりました。  

いつしか、もぐら達の姿も消え、いつもの朝がやってきました。 

この季節になると、ひっそりとした山も、大地も、たった今できたばかりですというように、真っ白に、キラキラと、 おいしそうに湯気を立てています。 

午前一時二十四夜の月から聞いた話です。 

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